23 November, 2017

[本]デイヴィッド・J・ハンド『「偶然」の統計学』ハヤカワ・ノンフィクション文庫〈数理を愉しむ〉シリーズ

「偶然」の統計学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫〈数理を愉しむ〉シリーズ)
デイヴィッド・J・ハンド
早川書房
売り上げランキング: 86,482
内容紹介
「ありえない」はずの出来事が、なぜ次々と起こるのか?

ロトで2回連続まったく同じ当選番号が出現。
生涯で7回も落雷にあい、墓石にまで雷が落ちる。
10万年に一度しか起こらないはずの金融危機に何度も見舞われる。

一見ありそうにない出来事が、実は頻繁に起きている。
それなのになぜ私たちの目には奇跡のように映るのか?
統計リテラシーを高め、「偶然」に惑わされないようにするには?

統計学者がギャンブルから人間原理まで豊富な具体例を挙げながら、
5つの法則からなる「ありえなさの原理」を解き明かす。

この手の本って,興味はあるけど読んでも満足できないことを経験則で知っているので買う気にならず,でも今回はついつい買ってしまいました。というのも,第1章の冒頭にあったエピソードが面白そうだったからです。

1972年の夏,ジョージ・ファイファーの小説『ペトロフカの少女』で助演を務めたアンソニー・ホプキンスが,原作を買いにロンドンへ出かけた。だが,市内のどの大きな本屋へ行ってもあいにく一冊もなかった。それが買える途中,地下鉄のレスタースクエア駅で電車を待っていたとき,隣の椅子に本が捨てて置かれているのに気がついた。それが『ペトロフカの少女』だった。

これだけではまだ偶然には当たらないとばかりに,この話には続きがある。後日,原作者と対面したおりにホプキンスがkの奇妙な成り行きの話をしたところ,ファイファーが関心を示した。というのも,1971年の11月,ファイファーは『ペトロフカの少女』を一冊人に貸した――その一冊はアメリカ版の刊行に向けてイギリス英語をアメリカ英語に直すための書き込みが入っていた唯一の本だった――のだが,友人がそれをロンドンのベイズウォーターでなくしていたのだ。ホプキンスがさっそく書き込みを確かめてみると,手持ちの本はファイファーの友人がどこかに置き忘れたまさにその本だったのだ。

で,そういう確率ってどれぐらいなの? こういう,起こりそうもないことが起こるのってどうしてなの? というのが,この本の中心テーマで,それに関連して,古い人達はこういった偶然に関する事象をどう扱ってきたか(「迷信」だったり「予言」だったりユリ・ゲラー的な「超常現象」だったり),という話などが紹介されるわけですが,そのホプキンスのエピソードに関していえば,結論としては,「超大数の法則」すなわち「十分に大きな数の機会があれば,どれほどとっぴな物事も起こっておかしくない」で説明される,と。

ということで,数々の「ありえない」出来事は,確率の問題であると同時に,人間の認知の問題でもあるという,結局はそういう話でございまして…。まぁでも再読しないかといえばそうでもなくて,たまに本棚から取り出して,適当にページをめくって適当に読むぶんには面白い本だと思いますよ。




[音楽]Four Tet "SW9 9SL"

Gilles Petersonの番組で耳にした,Four Tet "SW9 9SL"。Four TetことKieran Hebdenってロンドンの出身だから,この"SW9 9SL"もポストコードだと推測されるけれど,実際に地図で見ると,ライブハウスであるO2 Academy Brixtonが出てくる。何かゆかりがあるんですかね?



このMVは,1980-90年代の実験映像のような雰囲気,だけどそれがミニマリスティックな音楽と見事にマッチして,気持ちいいです。

07 November, 2017

[本]森本祐司,松平直之,植村信保『経済価値ベースの保険ERMの本質』きんざい

キャピタスコンサルティングの御三方による新刊です。

経済価値ベースの保険ERMの本質
森本 祐司 松平 直之 植村 信保
きんざい
売り上げランキング: 7,001

保険ERM(Enterprise Risk Management)のエッセンスをわかりやすく解説。会計の論理では、目に見えない「リスク」を商品とする保険会社の支払能力、収益力を正しく評価することはできない。しかも、そのリスクはしばしば長期にわたり、対価の受取りとは異なるタイミングで発現する。ここに保険会社経営において、ERMの重要性が強調される理由がある。著者は、いち早く経済価値ベースで保険会社の経営をとらえることの重要性を強調してきた日本の第一人者。本書の内容を踏まえずして、保険会社の経営を語ることはできない。

「本書の内容」が「ERM」だとしたら,それを踏まえずして保険会社の経営を語ることはできない,ってのは,そりゃそうだって感じですが……。

ざっと眺めて面白かったのは,「第1章 経済価値ベースのERM:この10年の振り返り」と「第5章 経済価値ベースのERMの意義をあらためて考える」です。経済価値ベースのERM・ソルベンシー基準が導入されるに至った経緯や,過去15年間の市場環境と保険会社の動向などは,読み物として面白い。あと,「第3章 経済価値ベースのERMの考え方(準備編)」で,金利とかディスカウントとかを丁寧に解説していのは印象的でした。

ほかに目についたのは,経済価値ベースと財務会計との関係性みたいな話で,短期的にはギャップがあるかもしれないし,経済価値ベースは変動が大きいから財務会計に注目するインセンティブがある,でも長期的にはそのふたつは収斂するし,だから短期的に財務会計だけに注目するのは将来の財務会計をないがしろにするのに等しい云々,という観点です。

06 November, 2017

[本]近藤康史『分解するイギリス: 民主主義モデルの漂流』ちくま新書

2年3ヶ月間のイギリス滞在中に,スコットランド独立とEU離脱とふたつのレファレンダムを目の当たりにすると,否が応でもイギリスの政治あるいはそのシステムに興味を持たざるをえなかったわけで,改めてこんな本を手に取ってみました。

分解するイギリス: 民主主義モデルの漂流 (ちくま新書 1262)
近藤 康史
筑摩書房
売り上げランキング: 35,252

内容(「BOOK」データベースより)
かつて世界で「民主主義のモデル」として賞讃されたイギリス政治。だがそれはいまや機能不全に陥り、ブレグジット(Brexit)=EU離脱という事態へと立ち至った。イギリスがこのように「分解」への道をひた走っている真の原因はいったいどこにあるのか。安定→合意→対立→分解へと進んできた現代イギリス政治の流れを俯瞰し、すでにモデルたり得なくなった英国政治の現状をつぶさに考察。混迷をきわめる現代政治のシステムと民主主義モデルの、今後あるべき姿を問いなおす。

著者が言うには,イギリスの政治はもっとも安定していたし,それというのも「議会主権」「小選挙区制」「二大政党制」「政党の一体性」「執政有意」「単一国家」という6つの要素が相互補完的に存在していたからである,しかし今は各要素がそれぞれに変質し,制度としてほころびがでてきている,ゆえに,かつては「民主主義のモデル」と目されていたイギリスの政治システムは,現在でこそそこから「学ぶ」ことはあれども,もはや「モデル」とはなりえない,ということです。

ノエル・ギャラガーがBrexitについて,

「毎晩テレビに政治家が出演してはこれがいかにイギリスの運命を永遠に変えてしまうかもしれないファッキン重要な決断だってあーだこーだいってるんだけど、俺としてはだったらおまえら政治家がファッキン国の運営と決断をするっていう金をもらってるだけの仕事をなんでしっかりやれないんだよっていいたいよ」

「なんで国民なんかに決めさせようとするんだよ? 国民なんてのは99パーセントが豚のうんこくらい頭悪いんだぜ」

https://rockinon.com/news/detail/144807

なんて語っていたのも,それはその通りなんだけど,一方でこの本の文脈でいえば「議会主権のほころび」であると同時に,「二大政党制では拾いきれない民意への配慮」,それがいくつかのイギリスで行なわれたレファレンダムである,ということです。

そういえば,「小選挙区制」は「二大政党制」を推進するもの,ということで,それはその通りなんですが,じゃあ「二大政党制」の何がいいかというと,常に政権交代の可能性をはらんでいる(いた)から,政党には競争原理が働くし,アカウンタビリティも発生する,ということなんですね。アカウンタビリティって日本語だと「説明責任」と約されたりしますが,たぶんちょっとずれていて,もしかしたら「ブーメラン」に近いのかも。たとえば「自衛隊は違憲だ」っていう主張を,政権与党になってもできますか?という。なので,「小選挙区制は民意を反映していない」という批判もあったりしますが,それ合ってなくて,逆に民意を誇張するかたちで(投票率と議席数が比例しない)結果がでるからこそ,政治の安定性にもつながるし,同時に政権交代の可能性も高まる,と。これは目からウロコでした。

ただそれが,純粋な小選挙区制ならいいんですが,日本のように比例代表との並立制になると,制度が「汚れる」と。そうなると,今の日本みたいに「一強多弱」みたいになりうるし,政権交代の可能性は下がるし,となると野党も非現実的な主張をするようになるし……,と。いいことないですね。

ということで,イギリス政治についての本ではあったのですが,一般的に政治システムについても考えるきっかけとなりまして,いい本でした。参考文献がいっぱい載っているのも好感が持てますし,「古き良き新書」という感じがします。

あとがきにありましたが,ちくま新書が刊行されたとき,著者は大学4年生だったらしい……,そういえば確か僕も大学生のときにちくま新書が出た記憶があるなぁと思ってみたら,著者は僕の3歳年上でした。


23 October, 2017

[本]田崎史郎『安倍官邸の正体』講談社現代新書

安倍官邸の正体 (講談社現代新書)
講談社 (2015-01-16)
売り上げランキング: 7,946
  • 財務官僚は極めて優秀であり,議員会館を回って議員とよく話している。その優秀さと熱心さにおいて,他の省庁を圧倒している。
  • 14年11月の解散は「官邸と,財務省並びに財務省応援団の議員の戦い」という一面があることを明記しておきたい。
  • 解散を決断した理由について,(…)「政治とカネ」の問題が噴出したため,態勢の立て直しを図ったと説明された。だが,首相側近は「あれはウソです」と断言している。
  • 今,私は読み誤った悔しさと,安倍,菅両氏が私の想像を超えて動いたことに敬意を抱いている。
  • 官邸は機能的に動いていると思われている方が多いだろう。しかし,首相以下,官邸の要人は正副長官会議がなければ,一堂に会する機会はめったにないのが現実だ。
  • 政治は言葉によってうごく。よほどのことがないかぎり,文書が作成されることはなく,口頭了解が政治の日常風景である。しかし,言葉で動いているがゆえに,政治に誤解は付きものだ。
  • 要するに,正副長官会議は安倍官邸における「最高意思決定機関」と言える。
  • 安倍は小泉に比べ発信力では劣る。しかし,「安倍さんのためなら何でも汗をかく」という同志には恵まれている。
  • 小泉の二男の衆院議員・進次郎も携帯電話で政治家,官僚らとの連絡を取らない。(…)上司に当たる地方創世担当相・石破茂ですら進次郎の携帯番号を知らない。
  • 直前に会った国会議員や官僚の意見に左右されることが分かり,鳩山への意見具申は先を争うのではなく,“後を争って”行われるようになった。
  • 野田官邸になって秘書官,官僚との関係は大きく改善した。
  • 人間には誰しも権力欲,自負心はあるが,国会議員のそれは並外れている。
  • ANAインターコンチネンタルホテル東京(…)の6階に24時間使用可能で時間貸ししているミーティングルームが四室あって,しかも他の客に気づかれずに出入りできる裏導線も備わっているので,政治家の会合によく用いられる。
  • もちろん,当時,正副長官会議のようなシステムがあったからといって,消費税や普天間移転問題を解決できたとは思わない。何の展望もなく,いきなり言い出す鳩山や菅の資質に根本的な問題があった。
  • 民主党政権崩壊の原因について,学者らの取材,分析によって書かれた『民主党政権 失敗の検証』(中公新書)がある。
  • (安倍)一次政権ではまず,首相官邸の態勢をそれまでの官房長官,副長官の「ライン中心」から,首相補佐官を軸とした「スタッフ重視」に切り替えた。それが,あとで振り返ると官邸崩壊を招いた。
  • 政権という城はつねに内部から崩れていく。
  • 官僚の本質を,元米大統領のリチャード・ニクソンは名著『指導者とは』(文春学藝ライブラリー)でこう書いている。(…)<指導者に忠誠心を抱く官僚は寥々たるもの。自分の信じる正義のために献身する者がほんの少しいるだけで,大部分の官僚は自己の利益だけを考えている>
  • 「官僚を利用するが,官僚に利用されない」。これを鉄則にして,人事をテコに霞ヶ関官僚を動かしていく。これが,第二次安倍政権の官僚支配の手法だ。
  • 問題を起こした官僚を,辞めさせるマイナスと,辞めさせないマイナス――。どちらのマイナスが大きいと判断するか。それが政権の重要なリスクマネジメント(危機管理)である。
  • 一年に一回ぐらいの人事は,永田町でも摂理である。小泉純一郎が「一内閣一官僚」を唱えていたのに,実際にはほぼ一年に一回,人事を行ったのはこの摂理に勝てなかったということだ。
  • ダブル辞任になったのではなく,あえてダブル辞任にした,いわばマネジメントされ,打撃を最小限に抑えこむ辞任劇だと思ったからだ。
  • 「ぶら下がりをやめたことが民主党政権の唯一の成果だ」――。安倍は就任当初,周囲にこう語り,
  • 反発が起きるのを恐れ,縮こまっているのではなく,思い切って踏み出せば抵抗は案外少ないと,安倍は思っている。
  • 「野田さんも二度目をやれますよ。私だって二度目をやるわけですから」
  • 元米大統領ニクソンはこう記している。(…)<指導者にとって大切なのは,何時間デスクの前で過すか,そのデスクがどこにあるかではなく,重要な決断を正しく下すかどうかである。>
  • 「安倍さんは地獄を見た政治家なんですよ」。菅は以前,こう話したことがある。地獄を見て,そこから這い上がってきたところに安倍の真骨頂がある。
  • 2012年12月26日の組閣時,安倍に「あの人をどうして使うのか」と尋ねたら,「人望はないんだけど,能力はあるんだよね」と,さらりと答えた。
  • 世耕は週に二回,安倍に会うように努めた。政治は基本的に損得ずくで動く。しかし,時として,打算を抜きにした関係もある。
  • 候補者は選挙区全体,および市町村ごとの得票率を注意深く見ている。小選挙区比例代表並立制導入後,対立候補が比例代表で復活できないほどに差を付けられるかが候補者の強さの目安になっている。
  • 私を含め報道機関が誤報してしまう根源は,他紙に抜かれるという恐怖感と,少しでも早く伝えたいという功名心だ。
  • <政治とは妥協の産物であり,民主主義とは政治の産物にほかならない。ステーツマンになろうと志す者は,まずポリティシャンでなければならない>(『指導者とは』)
  • 「戦後レジームからの脱却」を訴えた「美しい国」路線を引っ込め,経済成長重視のアベノミクス推進を最重要政策に据えた。これが,政策面における一次政権と二次政権の大きな相違点だ。
  • 白川は近々,首相の座に就く安倍の面前明らかに位負けしていた。一方,安倍は白川の立ち居振る舞いをみて,「日銀くみしやすし」と思った。
  • 法制局は内閣の一部局にすぎないのに,内閣のトップである首相が指示,命令しても動かないのが戦後日本の統治機構の断面だ。
  • 人を配置し,手順を考え,戦略を練る――。安倍は一次政権に比べて,はるかに用意周到になったと言える。
  • 菅は秋田杉の名産地として知られる秋田県雄勝町(現湯沢市)でイチゴ農家の長男として生まれた。秋田県の最南端に位置しているこの町は,美人として有名な平安時代の女流歌人・小野小町が生まれ,亡くなったという伝説がある。
  • 菅は当選後,当時の小渕派に所属し,梶山に政治のイロハを学んだ。菅が梶山を」政治の恩師」と呼ぶゆえんだ。
  • 菅の言葉はつねに,味気ないほど短い。余計なことは一切言わない。このため,政治状況や心理を脳裏に描きながら真意を汲み取らなければならないのだが,言葉の一つひとつは研ぎ澄まされていて,核心を突く。
  • 多数派工作は民主政治における「戦争」である。
  • あくまで一般論だが,官僚出身はカンが悪く,地方議員出身者はカンが良い。
  • 自民党と公明党は議員の立脚基盤で深々とかかわっているがゆえに,連立を崩せない。
  • 政権批判,あるいは菅個人への批判が案外少ないのは,菅のたゆまぬ努力の賜物かもしれない。記者の習性として情報過疎になると凶暴になるが,一定の情報を与えられていると案外,静かである。
  • この説得に,菅の官僚操縦術の一端が現れている。まずデータをそろえる。次に論理的に説得する。それで応じないから人事権を使う――。
  • 行動を起こす前に「おかしい」と思う感性が必要だ。
  • 麻生が首相時代にこう言っていた。「菅は秋田から集団就職で上京して法政大学に通い,小此木彦三郎の秘書になった。そして選挙区は都市化した横浜だ。都市と地方,両方の考えが分かるところがいい」
  • 菅は記者会見で失言したことがほとんどない。この点では,恩師の梶山より安定している。
  • かつて,名官房長官と呼ばれた人はいた。中曽根内閣の後藤田正晴,橋本内閣の梶山静六,小渕内閣の野中広務,小泉内閣の福田康夫らだ。(…)しかし,それぞれの首相との関係が良好だったかといえば,必ずしもそうではなかった。