13 March, 2014

「また御勉強?」

「また御勉強?」
 細君は時々立ち上がる夫に向かってこう云った.彼女がこういう時には,いつでもその語調のうちに或物足らなさがあるように津田の耳に響いた.ある時の彼は進んでそれに媚びようとした.ある時の彼はかえって反感的にそれから逃れたくなった.どちらの場合にも,彼の心の奥底には,「そう御前のような女とばかり遊んじゃいられない.おれにはおれですることがあるんだから」という相手を見縊った自覚がぼんやり働らいていた.
夏目漱石『明暗』

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